学科専門~過去問私的解説&ヒント~第57回気象予報士試験

問4:大気現象のスケール(気象の予想の応用)

問題文

大気現象のスケールに着目して述べた次の文(a)〜(d)の下線部の正誤について、下記の①〜⑤の中から正しいものを1つ選べ。

(a)大気中には、様々な時間空間スケールを持った現象が存在しているが、一般的に現象の空間スケールと時間スケールとの間には、正の相関がある

(b)準定常的な超長波(プラネタリー波)は、波長が1万km以上もある大気中で最大スケールの擾乱であり、チベット高原等の大規模な地形による力学的効果や大陸と海洋の分布による熱的効果により励起されたものである

(c)ある地点で大雨時に観測される降水強度には、数分〜10分程度の時間スケールの変動がしばしば見られる。この変動の要因の一つとして、個々の積乱雲の発生・衰弱や移動がある

(d)温帯低気圧のうち、梅雨前線上に発生する低気圧は相対的に水平スケールが小さく、対流圏上層においては明瞭な構造が見られないことが多い

① (a)のみ誤り
② (b)のみ誤り
③ (c)のみ誤り
④ (d)のみ誤り
⑤  すべて正しい

⑤  すべて正しい

(a)現象の空間・時間スケール

現象の空間スケールと時間スケールには、正の相関関係があります。

空間的に大きな現象は長く続くし、空間的に小さな現象は短時間しか続きません。

現象のスケールイメージ図

だから(a)の「大気中には、様々な時間空間スケールを持った現象が存在しているが、一般的に現象の空間スケールと時間スケールとの間には、正の相関がある。」は正しい!

(b)プラネタリー波

プラネタリー波は対流圏の偏西風がチベット山塊・ロッキー山脈などにぶつかったり、大陸や海洋の熱的効果などで起きている現象です。

だから(b)の「準定常的な超長波(プラネタリー波)は、波長が1万km以上もある大気中で最大スケールの擾乱であり、チベット高原等の大規模な地形による力学的効果や大陸と海洋の分布による熱的効果により励起されたものである。」は正しい!

(c)降水セルのスケール

大雨の時って暖かく湿った空気が次々に流れ込んできて、積乱雲が発生し衰弱しても、またすぐ次の積乱雲が生まれて・・・というサイクルが繰り返されますよね。

だから(c)の「ある地点で大雨時に観測される降水強度には、数分〜10分程度の時間スケールの変動がしばしば見られる。この変動の要因の一つとして、個々の積乱雲の発生・衰弱や移動がある。」は正しい!

(d)梅雨前線上の低気圧

梅雨前線上に発生する低気圧は、総観規模の低気圧に比べてスケールが小さく「小低気圧」とも表現されます。

水平スケールはメソαスケールです。

この小低気圧は下層の循環を主としていて、対流圏上層では不明瞭な場合が多いです。

というわけで(d)の「温帯低気圧のうち、梅雨前線上に発生する低気圧は相対的に水平スケールが小さく、対流圏上層においては明瞭な構造が見られないことが多い。」は正しい!

はれの
はれの

第56回試験でもよく似た内容で出題されています。

絶対覚えておいてほしい内容です!!!

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問5:発雷確率ガイダンス

問題文

気象庁で作成している発雷確率ガイダンスは、全国の20km格子毎の3時間内の発雷について予測するものである。発雷確率ガイダンスについて述べた次の文(a)〜(c)の下線部の正誤の組み合わせとして正しいものを、下記の①〜⑤の中から1つ選べ。

(a)ガイダンス値が小さいほど、対象領域内で発生する雷の強度が弱いことを予想している

(b)ガイダンス値が大きいほど、対象領域内での発雷数が多いことを予想している

(c)雷は発生頻度の低い現象であることから、発雷確率ガイダンスは逐次学習によるガイダンスではなく、過去の資料から一括学習により求めた回帰式に基づくガイダンスである

④ (a)誤,(b)誤,(c)正

(a)予想すること

発雷確率ガイダンスは降水確率と同じで、発雷するかどうかの確率を予測するガイダンスです。

発雷数が多いか少ないかや、強いか弱いかは予想していません。

だから(a)の「ガイダンス値が小さいほど、対象領域内で発生する雷の強度が弱いことを予想している。」は誤り!

(b)発雷数の予想はしていない

(a)でも書きましたが、発雷数の予想はしていないので、(b)の「ガイダンス値が大きいほど、対象領域内での発雷数が多いことを予想している。」は誤り!

(c)一括学習

発雷のように発生頻度が稀な現象の予測は、逐次学習型では有効性が低くなります。

だから発雷確率ガイダンスは、数年分のデータから一括学習によって求めるロジスティック回帰式で作成されています。

よって(c)の「雷は発生頻度の低い現象であることから、発雷確率ガイダンスは逐次学習によるガイダンスではなく、過去の資料から一括学習により求めた回帰式に基づくガイダンスである。」は正しい!

はれの
はれの

発雷確率ガイダンスについては、第54回の試験で出題されています。

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問6:大気海洋結合モデル

問題文

気象庁で運用している大気海洋結合モデルについて述べた次の文(a)〜(c)の下線部の正誤の組み合わせとして正しいものを、下記の①〜⑤の中から1つ選べ。

(a)予報期間が1ヶ月を超える予報では、エルニーニョ・ラニーニャ現象のような海洋の変動と大気の変動を併せて予測し、大気と海洋の間の相互作用を考慮することが必要であるため、大気海洋結合モデルを用いている

(b)大気のみのモデルで数日を超える予報を行う場合、「アンサンブル予報」という手法を用いるが、大気海洋結合モデルを用いると、海洋と大気が相互に及ぼし合う影響を取り込むことにより、単一の初期値でも精度の良い予報を得ることができるため、アンサンブル予報の手法は用いていない

(c)大気海洋結合モデルでは、熱帯の海洋による大気への影響を特に詳細に計算することで予報の精度を上げている。一方、全体の計算量が増えないよう、北極域や南極域は予報領域に含まれていない

③ (a)正,(b)誤,(c)誤

(a)1ヶ月を超える予報は海洋の影響も考慮

(a)の「予報期間が1ヶ月を超える予報では、エルニーニョ・ラニーニャ現象のような海洋の変動と大気の変動を併せて予測し、大気と海洋の間の相互作用を考慮することが必要であるため、大気海洋結合モデルを用いている。」はその通り。

ちなみに1ヶ月先までは「大気モデル」を用います。

  • 1か月先までの予報→大気モデル
  • 1か月を超える予報→大気モデル+海洋モデル(大気海洋結合モデル)

(b)季節アンサンブル予報システム

大気海洋結合モデルが利用されているのは、季節アンサンブル予報システムです。

また大気海洋結合モデルを用いたとしても、初期値の誤差が時間とともに増大するのを防げないので、アンサンブル予報を行う必要があるのです。

だから(b)の「大気のみのモデルで数日を超える予報を行う場合、「アンサンブル予報」という手法を用いるが、大気海洋結合モデルを用いると、海洋と大気が相互に及ぼし合う影響を取り込むことにより、単一の初期値でも精度の良い予報を得ることができるため、アンサンブル予報の手法は用いていない。」は誤り!

(c)予報領域

大気も海洋もつながっています。

大気海洋結合モデルは温暖化の予測にも利用されるし、っっっっっっっっっっっっっっっh北極域や南極域を無視するなんてあり得ませんよね。

だから(c)の「大気海洋結合モデルでは、熱帯の海洋による大気への影響を特に詳細に計算することで予報の精度を上げている。一方、全体の計算量が増えないよう、北極域や南極域は予報領域に含まれていない。」は誤りでしょう!

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