エルニーニョ・南方振動(ENSO: El Niño-Southern Oscillation)

晴野の個人的なまとめノートですが、公開しています。

誤りなどのご指摘は、ありがたいので遠慮なくご連絡ください。

ここでは気象予報士試験に出題されることのある南方振動とエルニーニョ・南方振動(ENSO)についてまとめています。

まず言葉の整理からしておきます。

南方振動とエルニーニョ・南方振動(ENSO)とは

南方振動

南太平洋東部で海面気圧が平年より高い時は、インドネシア付近で平年より低く、南太平洋東部で平年より低い時は、インドネシア付近で平年より高くなるというシ−ソ−のような変動をしており(図3)、南方振動と呼ばれています。

エルニーニョ・南方振動(ENSO)

南方振動は、貿易風の強弱に関わることから、エルニ−ニョ/ラニーニャ現象と連動して変動します。

このため、南方振動とエルニーニョ/ラニーニャ現象を大気と海洋の一連の変動として見るとき、エルニ−ニョ・南方振動(ENSO:エンソ)という言葉がよく使われています。

ENSOの構成要素

ENSOは、大きく分けて2つの要素から構成されます。

  • エルニーニョ現象(El Niño): 熱帯太平洋の東部(南米ペルー沖から日付変更線付近)で、海面水温が平年より高くなる現象を指します。
  • ラニーニャ現象(La Niña): エルニーニョ現象とは反対に、熱帯太平洋の東部で海面水温が平年より低くなる現象を指します。
  • 南方振動(Southern Oscillation): エルニーニョ現象やラニーニャ現象に伴って発生する、熱帯太平洋の東部と西部における大規模な気圧のシーソー変動です。インドネシア付近の気圧が上昇すると、タヒチ付近の気圧が下降するといったように、両地域の気圧が逆方向に変動します。

▶︎エルニーニョ現象を超わかりやすく

当初は「エルニーニョ現象」と「南方振動」は別々の現象として研究されていましたが、後に両者が強く関連していることが明らかになり、現在では一連の変動現象として「エルニーニョ・南方振動(ENSO)」と総称されています。

南方振動(ENSO)をもっとわかりやすく!

南方振動(ENSO)とは、「南太平洋東部とインドネシア付近の気圧がシーソーのような振動をしている」ことをいいますが・・・イメージし辛いのでイラストにしてみました。

  • 南太平洋東部の気圧が高い時、インドネシア付近の気圧は低くなる
    →負の南方振動(ラニーニャ現象)
  • 南太平洋東部の気圧が低い時、インドネシア付近の気圧は高くなる
    →正の南方振動(エルニーニョ現象)

この南方振動は、貿易風の強弱に関わります。

では、どのように貿易風に関わるのかというと・・・

南方振動(ENSO)と貿易風の関わり

負の南方振動(ラニーニャ現象時)

東側の南太平洋東部の気圧が高く、西側のインドネシア付近の気圧は低くなるので

東風が強まる=貿易風が強まる

ラニーニャ現象が発達

正の南方振動(エルニーニョ現象時)

東側の南太平洋東部の気圧が低く、西側のインドネシア付近の気圧は高くなるので

東風が弱まる=貿易風が弱まる

エルニーニョ現象が発達

ENSOのメカニズム

ENSOは、大気と海洋の相互作用によって発生する複雑な現象であり、「遅延振動子理論(自然界に見られる周期的な現象を、「時間遅れ(遅延)」を伴うフィードバックメカニズムによって説明しようとする理論)」などで説明されます。

基本的なメカニズムは以下の通り。↓

平常時(中立期)

熱帯太平洋では、貿易風(東風)が常に吹いています。

この貿易風によって、暖かい海水が太平洋の西部(インドネシア・フィリピン付近)に吹き寄せられます。

一方、太平洋の東部(ペルー沖)では、深層から冷たい海水が湧き上がってくる「湧昇(ゆうしょう)」が起こります。

この結果、太平洋西部は海面水温が高く、積乱雲が活発に発生する「ウォーカー循環※1」という大気循環が形成されます。
東部は海面水温が低く、乾燥しています。

※1:ウォーカー循環(Walker Circulation)とは、主に太平洋赤道域で見られる大規模な大気の東西方向の循環のこと。

エルニーニョ現象の発生

  1. 貿易風の弱まり】何らかのきっかけ(例えば、熱帯低気圧の発生など)で貿易風が弱まります。
  2. 暖水の東進】貿易風が弱まると、西部にたまった暖かい海水が東へ移動し始めます(ケルビン波の伝播)。
  3. 湧昇の抑制】東部での暖かい海水の蓄積により、深層からの冷たい水の湧昇が抑制されます。
  4. 海面水温の上昇】これにより、太平洋東部から中部にかけての海面水温が平年より上昇します。
  5. 大気循環の変化】海面水温の上昇に伴い、積乱雲の発生域が東へ移動します。これにより、ウォーカー循環が弱まり、大気循環のパターンが変化します。太平洋東部で上昇気流、西部で下降気流となるような大気循環偏差が生じます。
  6. 貿易風のさらなる弱まり】大気循環の変化が、さらに貿易風を弱める方向に作用し、エルニーニョ現象が自己増幅的に発達します。
ラニーニャ現象の発生
  1. 貿易風の強化】エルニーニョ現象が終息に向かう過程や、何らかのきっかけで貿易風が強まります。
  2. 暖水の西部への集中】貿易風が強まると、より多くの暖かい海水が太平洋西部へ吹き寄せられます。
  3. 湧昇の強化】東部では冷たい水の湧昇がさらに強まります。
  4. 海面水温の低下】これにより、太平洋東部から中部にかけての海面水温が平年より低下します。
  5. 大気循環の変化】積乱雲の発生域がさらに西へ移動し、ウォーカー循環が強化されます。太平洋西部で上昇気流、東部で下降気流となるような、平常時よりも強い大気循環偏差が生じます。
  6. 貿易風のさらなる強化】大気循環の変化が、さらに貿易風を強める方向に作用し、ラニーニャ現象が自己増幅的に発達します。

エルニーニョ現象やラニーニャ現象は数ヶ月から1年程度持続し、数年の間隔で発生することが一般的です。

このエルニーニョ・南方振動(ENSO)が日本へもたらす影響はどんなことでしょう?

南方振動(ENSO)の日本への影響

エルニーニョ時には冷夏・暖冬になりやすく、ラニーニャ時には猛暑・厳冬になりやすい傾向がある…と聞いたことがあるかもしれません。

では、どのような理由で、上記のような影響が出るのでしょうか。

エルニーニョ現象時

: 太平洋高気圧の日本付近への張り出しが弱まり、冷夏や長雨になりやすい傾向があります。
特に梅雨末期を含む7月は集中豪雨が発生しやすくなります。
台風の発生数は減少する傾向がありますが、秋の台風は寿命が長くなる傾向があります。

: 西高東低の気圧配置が弱まり、暖冬になりやすい傾向があります。
特に西日本や東日本では積雪が少なくなる可能性があります。
本州太平洋側や沖縄・奄美地方では降水量が多くなる傾向があります。

ラニーニャ現象時

: 太平洋高気圧の日本付近への張り出しが強まり、猛暑になりやすい傾向があります。
降水量が平年より少なくなる傾向もあります。
台風の発生数は増加する傾向があり、発生位置が西にずれる傾向があります。

: 西高東低の気圧配置が強まり、厳冬になりやすい傾向があります。
日本海側で大雪となる可能性があります。

ただし、これらの影響はあくまで「傾向」であり、必ずしもその通りになるとは限りません。

ENSO以外の要素も日本の天候に影響を与えるため、複数の要因が複雑に絡み合って実際の天候が形成されます。

南方振動(ENSO)の世界への影響

主な影響の例(降水量・気温・熱帯低気圧の発生)

降水量の変化

エルニーニョ時
熱帯太平洋東部で降水量が増加する一方、インドネシア、オーストラリア、南アジアの一部などで干ばつが発生しやすくなります。
南米のアンデス山脈や北米の一部でも降水が増加する傾向があります。

ラニーニャ時
熱帯太平洋西部で降水量が増加し、インドネシアやオーストラリア北部では洪水が発生しやすくなります。
南米のアンデス山脈や北米の一部で干ばつが発生しやすくなります。

気温の変化

エルニーニョ時
北半球の冬に、北米北部やアジアの一部で暖冬になる傾向があります。

ラニーニャ時
北米北部やアジアの一部で寒冬になる傾向があります。

熱帯低気圧(台風・ハリケーン)の発生

エルニーニョ時
太平洋域での台風やハリケーンの発生位置が東にずれ、中心気圧が低くなる(発達しやすい)傾向があります。北大西洋でのハリケーンの発生は抑制される傾向があります。

ラニーニャ時
太平洋域での台風やハリケーンの発生位置が西にずれ、北大西洋でのハリケーン活動が活発になる傾向があります。

モンスーンの変化

インドモンスーンや東アジアモンスーンに影響を与え、その強さや降水量に変動をもたらします。