学科専門~過去問私的解説&考察~第64回気象予報士試験・問5

問5:アンサンブル予報

気象庁のアンサンブル予報について述べた次の文(a)~(d)の正誤の組み合わせとして正しいものを、下記の①~⑤の中から1つ選べ。

(a)アンサンブル予報の各メンバーそれぞれの子測精度は、統計的には、摂動を加えていないコントロールランの予測精度より劣る。

(b) アンサンブル予報のスプッドが大きい場合は、小さい場合に比べて予報の不確実性は小さく、予報の信頼度が高いと考えられる。

(c) アンサンブル平均された予報結果は、各予報要素間で物理的に整合した値とはなっていない。

(d)アンサンブル予報では、数値予報の不確実性を推定するため、初期値だけでなく、境界値や数値予報モデルのパラメータに揺らぎを与えたり、あるいはこれらを組み合わせたりすることで、複数の予測を行っている。

② (a)正, (b)誤, (c)正, (d)正

(a)各メンバーそれぞれの子測精度

出題頻度1

アンサンブル予報の各メンバー(個々の予測結果)の予測精度は、統計的に見ると、摂動を加えていないコントロールランの予測精度より劣るのが一般的です。

なぜ個々の精度が劣るのか・・・

これは、アンサンブル予報の目的が「最も正確な単一の予測」をすることではなく、「予測の不確実性を評価すること」にあるためです。

用語整理

コントロールラン: 初期値やモデルの物理パラメーターに摂動を加えていない、最も一般的な予測。

アンサンブルメンバー: 初期値やモデルにわずかな摂動(不確実性)を加えて計算される予測。

そのため、個々のメンバーは「わざと」不確実性を導入しているため、統計的には、最も理想的な設定で計算されたコントロールランの予測精度に劣ることになります。

よって(a)の「アンサンブル予報の各メンバーそれぞれの子測精度は、統計的には、摂動を加えていないコントロールランの予測精度より劣る。」は正しい。

はれの
はれの

でも、すべてのメンバーを総合して考えることで、予測の幅や確率的な情報が得られるため、コントロールラン単独よりも、はるかに有用な情報を提供しますよ。

(b)スプッドと信頼度

出題頻度3

アンサンブル予報において、スプレッドが大きい場合は、小さい場合に比べて予報の不確実性が大きく、予報の信頼度は低いと判断されます。

スプレッドとは?

スプレッドとは、アンサンブル予報の各メンバー(個々の予測結果)がどれだけ互いにばらついているかを示す指標です。

  • スプレッドが大きい: 各メンバーの予測結果が大きく異なっている状態です。
    これは、大気の状態が非常に不安定で、わずかな初期値の差が未来の予測に大きな影響を与えることを意味しますます。
    つまり、どの予測が当たるかわからないため、不確実性が高く、予報の信頼度は低いと判断されます。
  • スプレッドが小さい: 各メンバーの予測結果が互いに非常に近い状態です。
    これは、大気の状態が比較的安定しており、初期値のわずかな誤差が予測に大きな影響を与えないことを意味します。
    つまり、どの予測も似たような結果を示すため、不確実性が低く、予報の信頼度は高いと判断されます。

よって(b) の「アンサンブル予報のスプッドが大きい場合は、小さい場合に比べて予報の不確実性は小さく、予報の信頼度が高いと考えられる。」は誤り!

はれの
はれの

アンサンブル予報では、スプレッドの大きさを確認することで、予報の確からしさを評価し、リスク管理に役立てます。

(c)予報結果の値

出題頻度1

アンサンブル平均された予報結果は、各予報要素間で物理的に整合した値にはなっていません。

【アンサンブル平均の性質】

アンサンブル平均は、個々のメンバーの予測結果(例:気温、気圧、風速、湿度など)を単純に平均したものです。

これは、個々の予測が持つノイズや不確実性を平滑化し、最も起こりそうなシナリオの中心傾向を捉えるのに役立ちます。

しかし、この単純な平均操作は、大気の物理法則を考慮していません。
たとえば、以下のような問題が生じます。

  • 物理法則の無視: 大気は、運動方程式や熱力学の法則によって厳密に支配されています。
    気温、湿度、気圧、風速などの要素は、相互に密接な関係を持っています。
  • 非現実的な値: アンサンブル平均によって算出された値は、個々のメンバーでは存在しない、物理的に不可能な組み合わせになることがあります。
    例えば、ある場所のアンサンブル平均された気温と湿度、風速の組み合わせが、現実の大気ではありえない状態を示してしまうことがあります。

このため、アンサンブル平均された予報は、「確率的に最もありそうな天気傾向」を示す情報としては非常に有用ですが、それを基に詳細な物理過程を議論したり、特定の物理法則に沿った計算を行ったりすることはできません。

よって(c) の「アンサンブル平均された予報結果は、各予報要素間で物理的に整合した値とはなっていない。」は正しい!

はれの
はれの

物理的な整合性を保つためには、個々のメンバーの予測結果をそれぞれ独立して解析する必要があります。

(d)数値予報の不確実性を推定

出題頻度1

アンサンブル予報では、初期値の揺らぎだけでなく、境界値や数値予報モデルのパラメーターに揺らぎを与える、あるいはそれらを組み合わせることで、複数の予測を行っています。

【アンサンブル予報の目的と手法】

アンサンブル予報の主な目的は、将来の予測の不確実性を評価し、予測結果がどの程度信頼できるかを把握することです。

初期値のわずかな誤差が予測に大きな影響を与えるカオス性(初期値の不確実性)を考慮するために、初期値に小さな摂動(揺らぎ)を加えるのが基本的な手法です。しかし、実際の予測には他にも不確実性の要因があります。

  • 境界値の不確実性: 全球モデルでは、大気の流れを再現するために海面水温などを境界条件として与えますが、これらの観測値にも誤差があります。
  • モデルの不確実性: モデルを構成する物理法則(雲の形成や乱流など)のパラメーター設定にも不確実性があります。

これらの不確実性も考慮するために、一部の高度なアンサンブルシステムでは、初期値の揺らぎに加えて、境界値や物理パラメーターに揺らぎを与えて複数のメンバーを計算し、予測の精度を高めています。

よって(d)の「アンサンブル予報では、数値予報の不確実性を推定するため、初期値だけでなく、境界値や数値予報モデルのパラメータに揺らぎを与えたり、あるいはこれらを組み合わせたりすることで、複数の予測を行っている。」は正しい!

はれの
はれの

これにより、より現実的な予測の幅を把握することが可能になります。

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