学科専門~過去問私的解説&ヒント~第55回気象予報士試験

ここでわかること

令和3年1月の第55回気象予報士試験の学科専門知識の問題を、はれのだったらこう解く!という考え方や解き方をまとめています。

あなたが次に似たような問題を解く時、「ヒント」となるような内容を目指してます!!!

問1から順番に見る

※私個人の試験問題を解く時の思考例です。(気象業務支援センターとは関係ございません。)

はれの
はれの

もし第55回気象予報士試験の学科一般の問題と解答を持っていなければ、まずこちらでダウンロードしてください。

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1:地上気象観測と観測結果の統計について

問題文

気象庁が行っている地上気象観測と観測結果の統計について述べた次の文(a)〜(d)の 正誤について,下記の1〜5の中から正しいものを 1 つ選べ。

(a) 同一期間内に極値となる値が 2つ以上現れた場合は, 起日(起時)の新しい方を極 値としている。

(b) 日照時間は,全天日射量が一定のしきい値以上となった時間を合計して求めている。

(c) 平年値は,過去50年間の平均値をもって定義し,10年ごとに更新している。

(d) 日最高気温が30°C以上の日数を夏日の日数,0°C未満の日数を冬日の日数としてい る。

① (a)のみ正しい
② (b)のみ正しい
③ (c)のみ正しい
④ (d)のみ正しい
⑤ すべて誤り

① (a)のみ正しい

(a)極値が2つ以上あったら

「極値」とは、ある期間に観測された値の最大値(最高値)または最小値(最低値)のこと。

「極値」ルール
  • 起日(起時)は、最大または最小の値が発現した日(時刻)とする。
  • 同一期間内に極値となる値が 2 つ以上現れた場合は、起日(起時)の新しい方を極値とする。

だから(a)の「 同一期間内に極値となる値が 2つ以上現れた場合は, 起日(起時)の新しい方を極値としている。」は正しい!

(b)日照時間とは

日照時間とは、日照時間とは直射日光が地表を照射した時間です。
現在、日照は、「直達日射量が0.12kW/㎡以上」として定義しています。

 日射には、直達日射と散乱日射・全天日射がありまして、それぞれの違いはこちら↓

直達日射太陽から直接地上に到達する光
散乱日射太陽光が大気中の粒子等により散乱・反射されて 地上に届く光
全天日射直達日射の水平面成分と散乱日射の和

だから(b)の「日照時間は,全天日射量が一定のしきい値以上となった時間を合計して求めている。」は誤り!

(c)平年値とは

平年値とは、過去30年間の観測値の平均をもとに算出しています。

2020年までの予報には1981年~2010年の30年間を用い
2021年からの予報には1991年~2020年の30年間を用いる。

過去30年間とは?

2020年までの予報での「過去30年間」とは、1981年~2010年の30年間のこと。
2021年からの予報での「過去30年間」とは、1991年~2020年の30年間のこと。

だから(c)の「 平年値は,過去50年間の平均値をもって定義し,10年ごとに更新している。」は誤り!

(d)夏日・冬日

夏日とは、「日最高気温が25℃以上の日」のこと。
冬日とは、「日最低気温が0℃未満の日」のこと。

問題では

  • 夏日…日最高気温が30°C以上←違います。25℃以上です。
  • 冬日…日最高気温が0°C未満←違います。「日最低気温」が0°C未満です。

だから「(d) 日最高気温が30°C以上の日数を夏日の日数,0°C未満の日数を冬日の日数としてい る。」は誤り!

▶︎▶︎▶︎用語解説「夏日・真夏日」, 「冬日・真冬日

2:ウィンドプロファイラ観測について

問題文

気象庁が行っているウィンドプロファイラ観測について述べた次の文(a)〜(d)の正誤について,下記の1〜5の中から正しいものを 1 つ選べ。

(a) 地上から上空の5方向に向けて電波を発射し,大気中の風の乱れなどによって散乱 され戻ってくる電波の周波数のずれから,上空の風向・風速を測定する。

(b) 非常に激しい雨が降っているときは,降水粒子による散乱が強すぎてそれより上 空の観測データが得られない場合がある。

(c) 散乱され上空から戻ってくる電波の強度の鉛直分布から,上空の融解層の存在を 判別できる場合がある。

(d) 上空の大気が乾燥していると,散乱され戻ってくる電波が弱くなり観測できる高 度が低くなる傾向がある。

① (a)のみ誤り
② (b)のみ誤り
③ (c)のみ誤り
④ (d)のみ誤り
⑤ すべて正しい

⑤ すべて正しい

(a)観測するものと観測方法

ウィンドプロファイラで観測するのは、上空の風速・風向。

観測方法はこれ↓

地上から上空に5方向に電波を発射

大気の屈折率(大気中の温度差・水蒸気量の差など)などの乱れで、電波が散乱される。

散乱されて戻ってくる電波を受信・処理

発射した電波の周波数と受信した電波の周波数の偏移から、上空の水平風・鉛直風を観測。

だから(a)の「地上から上空の5方向に向けて電波を発射し,大気中の風の乱れなどによって散乱 され戻ってくる電波の周波数のずれから,上空の風向・風速を測定する。」は正しい!

(b)弱点は激しい雨

ウィンドプロファイラの電波は、降水粒子があると、ダイレクトに強く反射されます。

はれの
はれの

ということは、当然降水粒子の上空に電波は届かないことになります。

だから(b)の「 非常に激しい雨が降っているときは,降水粒子による散乱が強すぎてそれより上空の観測データが得られない場合がある。」は正しい!

(c)融解層

  • ウィンドプロファイラは融解層を判別できる場合があるか?
    • その通り!
  • どうやって融解層を判別してる?
    • 降水の落下速度で判別してる。
      (雪が融解して雨になると落下速度が大きくなるから。)

だから(c)の「 散乱され上空から戻ってくる電波の強度の鉛直分布から,上空の融解層の存在を 判別できる場合がある。」は正しい!

はれの
はれの

融解層は強いエコーが観測されるので「ブライトバンド」とも呼ばれるよ!

(d)乾燥は弱点

ウィンドプロファイラは、上空に電波を発して反射してきたのを受信することで上空の風を観測しています。

はれの
はれの

空気が乾燥しているってことは、発した電波が少ししか返ってこないってこと。

だから上空が乾燥していると、観測できる高度が低くなる傾向があるんです。

というわけで、(d)の「上空の大気が乾燥していると,散乱され戻ってくる電波が弱くなり観測できる高度が低くなる傾向がある。」は正しい!

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3:気象レーダーによる観測やその特性

問題文

気象庁が運用している気象レーダーによる観測やその特性について述べた次の文(a) 〜(c)の正誤の組み合わせとして正しいものを,下記の1〜5の中から 1 つ選べ。

(a) ドップラーレーダーで観測した風のデータは,⻯巻の発生と関連の深いメソサイ クロンの検出に活用されている。

(b) 非降水エコーの原因となる電波の異常伝搬は,気温が高度とともに急激に上昇す るなど,屈折率が高さ方向に大きく変化する場合に発生することが多い。

(c) 水平偏波と垂直偏波を用いる二重偏波気象レーダーでは,それぞれの反射波の振幅 の比から降水粒子の形状に関する情報が得られるため,雨や雪の判別が可能となる。

① (a)正, (b)正, (c)正

(a)メソサイクロンの検出に活用

  • ドップラーレーダーはメソサイクロンの検出に使われているか?
    • 答え:使われている。
  • メソサイクロンは竜巻の発生と関連が深いか?
    • 答え:深い!

(a) ドップラーレーダーで観測した風のデータは,⻯巻の発生と関連の深いメソサイ クロンの検出に活用されている。」は正しい!

(b)屈折率の変化が大きいと…

電波の異常伝搬は、非降水エコーの原因となるか?
なる。
電波の異常伝搬は,気温が高度とともに急激に上昇するなど,屈折率が高さ方向に大きく変化する場合に発生することが多いか?
その通り!

だから(b) の「非降水エコーの原因となる電波の異常伝搬は,気温が高度とともに急激に上昇するなど,屈折率が高さ方向に大きく変化する場合に発生することが多い。」は正しい!

▶︎▶︎▶︎用語解説「異常伝搬

(c)雨・雪の判別

  • 水平偏波とは?
    • 水平方向に波打つ電波のこと。
  • 垂直偏波とは?
    • 鉛直方向に波打つ電波のこと。
  • 水平偏波と垂直偏波の2種類のを用いる気象レーダーのことをなんというか?
    • MP(マルチパラメーター)レーダーという。
      二重偏波レーダーともいう。
  • 二重偏波気象レーダーは雨や雪の判別が可能か?
    • 可能。
はれの
はれの

鉛直方向と水平方向から降水粒子を見ることで
「どんな形かわかる」→「雨か雪かわかる」

ってわけです。

だから(c) の「水平偏波と垂直偏波を用いる二重偏波気象レーダーでは,それぞれの反射波の振幅 の比から降水粒子の形状に関する情報が得られるため,雨や雪の判別が可能となる。」は正しい!

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4:数値予報モデルについて

問題文

気象庁が運用する数値予報モデルについて述べた次の文(a)〜(d)の下線部の正誤につ いて,下記の1〜5の中から正しいものを 1 つ選べ。

(a) 数値予報モデルでは,一定時間(ステップ)ごとに大気の状態の計算を繰り返して将 来の状態を予測する。1 ステップの⻑さは,全球モデルでは約 30 分,メソモデルで は約 10 分である。

(b) 客観解析に4 次元変分法を導入したことにより,数値予報の初期時刻と異なる時 刻に観測されたデータをより有効に利用できるようになった。

(c) メソモデルの予報結果は,予報領域の境界を通じて全球モデルの予報結果の影響 を受けるが,その影響は予報時間が⻑くなるほど小さくなる。

(d) メソモデルは静力学近似を用いておらず,対流雲を格子スケールの現象として直 接表現できるため,格子スケールより小さな対流を扱う積雲対流パラメタリゼーシ ョンは用いていない。

① (a)のみ正しい
② (b)のみ正しい
③ (c)のみ正しい
④ (d)のみ正しい
⑤ すべて誤り

② (b)のみ正しい

(a)1ステップの長さ

この問題が言う「1ステップ」とは、予測実行回数の頻度が何分ごとか?ってことかと思います。

  • 全球モデル…400秒(約6.7分)
  • メソモデル…20秒
  • 局地モデル…8秒

だから(a)の 「数値予報モデルでは,一定時間(ステップ)ごとに大気の状態の計算を繰り返して将来の状態を予測する。1 ステップの⻑さは,全球モデルでは約 30 分,メソモデルで は約 10 分である」は誤り!

(b)四次元変分法の利点

四次元変分法とは、客観解析で格子点の値を決定する方法で、非定時の値も解析に使う。

非定時における値の変化の推移も盛り込む。・・・つまり時間の次元も盛り込む手法なので四次元変分法という。

非定時の値を解析に使うということは、初期時刻と違う時刻に観測されたデータも盛り込むってことなので…

(b) の「客観解析に4 次元変分法を導入したことにより,数値予報の初期時刻と異なる時刻に観測されたデータをより有効に利用できるようになった。」は正しい!

(c)全球モデルの影響と予報時間の関係

  • メソモデルの予報結果は,予報領域の境界を通じて全球モデルの予報結果の影響 を受ける?
    • その通り!
  • メソモデルへの全球モデルの予報結果の影響は、予報時間が⻑くなるほど小さくなる?
    • 大きくなる!
はれの
はれの

日本周辺の天気を予測するメソモデル(MSM)は、予報領域とその外側との境界の計算に側面境界値として利用している全球モデル(GSM)を使っています。

これをネスティングっていいます。(呼び名は重要ではないです。)

第49回の試験にも同じ問題が出ましたが、時間の経過と共に予測結果が現実とずれて行くわけだし

そもそもMSMとGSMは解像度が違うので、側面境界でのギャップはあるよね!

だから(c) の「メソモデルの予報結果は,予報領域の境界を通じて全球モデルの予報結果の影響 を受けるが,その影響は予報時間が⻑くなるほど小さくなる。」は誤り!

(d)積雲対流パラメタリゼーション

  • メソモデルは静力学近似を用いていない?
    • その通り!
      メソモデルや局地モデルでは非静力学モデルで、積乱雲のような擾乱の予測に適しているのです。
  • メソモデルでは、対流雲を格子スケールの現象として直接表現できる?
    • いいえ、直接表現はできません。
      (局地モデルでも直接表現はできません。)
  • メソモデルでは、格子スケールより小さな対流を扱う積雲対流パラメタリゼーションは用いていない?
    • 用いてます!

だから(d) の「メソモデルは静力学近似を用いておらず,対流雲を格子スケールの現象として直接表現できるため,格子スケールより小さな対流を扱う積雲対流パラメタリゼーションは用いていない。」は誤り!

5:メソアンサンブル予報について

問題文

気象庁では,メソモデルの初期値や境界値に少しずつ異なった誤差(摂動)を人工的に 加えて複数の予測を行うメソアンサンブル予報を運用しており,その一つ一つの予測を メンバーと呼ぶ。このメソアンサンブル予報について述べた次の文(a)〜(c)の下線部の正 誤の組み合わせとして正しいものを,下記の1〜5の中から 1 つ選べ。

(a) 各メンバー単独の降水量の予測精度は,統計的には,摂動を加えていないメソモ デル単独の予測精度より劣る。

(b) 激しい気象現象が発生する可能性について,メソモデルの予測結果のみでは把握 が難しい場合でも,複数のメンバーの予測結果を用いることにより早い段階で把握 することができるようになる場合がある。

(c) メソモデルで予測が難しい現象は,メソアンサンブル予報でも予測が難しいが,複数 のメンバーの予測結果から現象の発生を確率的に捉えることができるようになる。

① (a)正, (b)正, (c)正

(a)各メンバーの予測精度

メソアンサンブル予報の各メンバーは、統計的にMSM(摂動なし)よりの予測精度が低いものが多いです。

だから(a) の「各メンバー単独の降水量の予測精度は,統計的には,摂動を加えていないメソモデル単独の予測精度より劣る。」は正しい!

(b)激しい気象現象発生の可能性

  • メソアンサンブル予報なら、激しい気象現象が発生する可能性について、早い段階で把握することができる場合がある?
    • そうね〜できる場合もあるでしょうね〜
      (絶対早い段階で把握することがである!というものではないよ。)
  • 激しい気象現象発生の可能性を把握には、複数のメンバーの予測結果を用いることが役立ってる?
    • その通り!
      (絶対に激しい現象を予測できる!ということではないけれど。)

例えば大雨や暴風など災害をもたらす激しい気象現象が発生する可能性について、一つのMSMの予測結果のみでは把握が難しい場合でも、複数の予測結果を用いることによって、早い段階で把握することができるようになる。

引用元:気象庁

(b) 激しい気象現象が発生する可能性について,メソモデルの予測結果のみでは把握 が難しい場合でも,複数のメンバーの予測結果を用いることにより早い段階で把握 することができるようになる場合がある。」は正しい!

(c)現象の発生を確率的に捉える

アンサンブルは複数のメンバーから予測値を得られるので、現象が起きる確率を計算することができるよね。

だから(c) の「メソモデルで予測が難しい現象は,メソアンサンブル予報でも予測が難しいが,複数 のメンバーの予測結果から現象の発生を確率的に捉えることができるようになる。」は正しい!

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